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千葉地方裁判所 昭和62年(わ)43号 判決

判決主文

被告人を懲役六月に処する。

この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和四三年末に税理士試験に合格し、翌昭和四四年六月ころから茨城県勝田市内に事務所を開設して執務中、昭和五四年ないし五五年ころ後記の分離前の相被告人で東日本同和会副会長中島文男と知り合い、その後同人の依頼により水戸市内に本店があった同人経営の会社の税務事務を処理するほか、同人個人の確定申告手続をも処理していた者である。

ところで、右中島文男は、千葉県東葛飾郡沼南町岩井四六八番地に居住して農業を営み養父勝矢久雄の死亡により同人の財産を他の相続人と共同相続した分離前の相被告人勝矢孝雄から、人を介して、同人らが本来納付すべき相続税を一部免れることについて相談を受け、その趣旨に沿ったその件の処理を前記東日本同和会中央本部相談役であった分離前の相被告人宮原一、及び同本部理事であった同じく分離前の相被告人鈴木洋樹に指示した。この指示を受けた右両名は、前記勝矢や被告人綿引らに連絡して会合し、脱税の具体的な方法について色々相談した末、最終的には被相続人について一億四五〇〇万円の架空の連帯保証債務を計上して課税価格を減少させる方法によって、勝矢孝雄の相続税のうち約六〇〇〇万円前後を免れようとの相談がまとまった。

そこで、被告人綿引爽五は、右のとおり、前記中島、宮原、鈴木、勝矢らと共謀のうえ、昭和五九年八月二八日、千葉県柏市柏一丁目二番一八号所在の所轄柏税務署において、同税務署長に対し、被相続人勝矢久雄の死亡により同人の財産を相続した相続人全員分の正規の相続税課税価格は、三億八三九七万三〇〇〇円で、このうち右勝矢孝雄分の正規の課税価格は三億二九〇四万円であったのにかかわらず、右勝矢久雄には、高橋一夫、小松賢郎及び許勇に対する合計一億四五〇〇万円の連帯保証債務があり、右勝矢久雄の相続人である勝矢孝雄においてこれを負担すべきこととなったので、取得財産の価格からこれらを控除すると相続人全員分の課税価格は、二億三八九七万三〇〇〇円で、右勝矢孝雄分の課税価格は、一億八四〇四万円となり、これに対する右勝矢孝雄の相続税額は、三九七七万六五〇〇円である旨の虚偽の相続税申告書を提出し、もって、不正の行為により右勝矢孝雄の正規の相続税額九六一五万一六〇〇円と右申告税額との差額五六三七万五一〇〇円を免れたものである。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告人綿引について、検察官が脱税に関する共謀の成立時であると主張する昭和五九年八月二二日の安井稿方での会合に、同被告人も出席してはいたが、同被告人に対しては、前記中島、同宮原らから、勝矢の税額を減少させるべく税務署職員と交渉し、必要ならば政治家をも利用するといった程度の話がされただけで、それ以上に脱税の共謀が成立した、評価できるような相談まではなかった、そして同被告人のその後の関与行為の内容、程度からみると、これを共同正犯と評価することはできず、幇助犯と認めるのが相当である、と主張している。

しかし、証拠に照らし、八月二二日の安井方での右会合の模様だけでなく、その後同月二八日に税務申告をするに至るまでの間の被告人綿引の関与行為の内容とその行為の性質、それが本件犯行計画の中で占める重要性等を考えると、やはり同被告人の行為は、本件の共同正犯にあたると評価せざるを得ない。まず、八月二二日の安井方での会合の模様について、勝矢孝雄は、当公判廷での証言中において、中島から税金額を半分位に下げるとか、そのときはその報酬として安くなった税額の半分をもらうというような話があり、話全体の雰囲気から判断して違法な手段による税額操作が行われる印象を受けた、と述べている。同証人は、その場では、自己の税額が今後どのようになりそうか、また中島らに依頼すればその件でいくら支払わなければならなくなるか等の点について最も大きな利害関係と関心をもち、それだけに、この点に最も敏感にならざるを得ない立場にあったのであるから、そういう立場にあった者の右のような記憶ないし印象は軽視できないものを含んでいると考えられる。のみならず、八月二七日(申告手続の前日)に、被告人綿引は、宮原、鈴木、勝矢らと柏駅前の喫茶店で落ち合い、税額を減額するのに必要な具体的方法や細目の相談をした事実が明らかであるが、その際には、被相続人について架空の連帯保証債務を計上する方法をとることや、これをどの位の債務額に設定すれば税額がどれ位に減額されて、当初の目的である税金額を半分位にする目的を達することができるかといった点の検討、計算が被告人綿引の手でなされたうえで、話の大筋がまとまっていったことが認められる。したがって、この時点では、勝矢はもとより、被告人自身においても、これが違法手段による典型的脱税工作であることは一目明白に認識していたと認められるのである(被告人の当公判廷における供述参照)。その上で、被告人らは、所轄の柏税務署に行き、税務署員に対して、明日が申告期限のところ、必要な資料が間に合わないかも知れないがそれは後日提出すると言って、前記架空債務の計上についての裏付資料調整の余裕時間を得、即日、中島らの待つ「誠商」へ行き、中島をまじえて架空債務計上額についての最終的相談をし、もっともらしく見えるようにとの配慮を加えて、債務額を一億四五〇〇万円とすることを中島らが中心になって決め、これにしたがって申請書の作成案を被告人綿引が行って、翌八月二八日同被告人から中島、宮原、鈴木らに説明し、こうして完成した申告書を同日宮原が税務署に提出したという経過も明らかなのである。

こうしてみると、八月二二日以降八月二八日に申告書を提出するまでの間において、被告人綿引が、本件脱税計画の具体的方法、規模、後日の資料提出の必要性等をよく知った上で、自らも宮原らと一緒に行動してその計画の分担実行にあたっていたことは明らかである。そして、この種の税務申告手続ないし巧妙な税ほ脱手続の実行のためには、税務事務に関するある程度の専門的知識を有することが大きな力を持ち、例えば具体的逋脱方法の選択、課税価格と税額との関連・試算、申告書の作成、申告内容に対応して必要とされる疎明資料問題等いずれも税務知識なしには容易に行いえない性質の行為であり、そうであるだけに、同被告人は、自ら本件犯行を実行する上で大きな力となった行為を分担実行したと見るべきであって、これを、弁護人の言うような、単に申告書の作成をめぐる補助的行為などと軽く評価すべきものではない。

中島らは、本件犯行の報酬として、勝矢から合計三〇〇〇万円を受け取ったが、その中から中島、宮原、鈴木らは約六〇〇万円位の配分を得ているのに、被告人綿引は一〇〇万円の配分を受けたのみであった。そこで弁護人は、右配分金額の顕著な格差をもって、被告人綿引の行為を幇助犯と考える根拠の一つにかかげている。金額の格差には関与者らの行為の重要性に関する各自の主観的評価を反映している面があることは間違いないであろう。しかし、右の報酬は、反面、本件犯行に関与していない者あるいは関与がより薄い者にたいしても配分されており、その点からすると、配分金額の多少は、必ずしも本件犯行中において各人のはたした役割の大・小に照応しているもののようにも見受けられない面がある(例えば、同和会の組織内の者には手厚くするというように)ほか、元来各人が分担実行した行為の客観的重要性と、これに対する関与者の主観的評価とはかならずしも常に一致しているとは限らず、そのため、例えば被告人綿引の行為は、客観的には重要行為であったにもかかわらず、配分額を決める者の意識にはそのように映らずあるいは他の考慮を優先させた結果被告人の配分額が少なく決められた、ということも、本件では立場の違いを考えると十分ありうることと理解される。

したがって、前記の点を大きな根拠として被告人綿引の行為を幇助犯と結論づけるのは、本件では適当でない。

右に述べた理由で、弁護人の主張は採用できない。

(量刑理由)

本件ほ脱金額は五六〇〇万円を超える高額であり、正規の税額の五八パーセントをほ脱するという高率である。納税者の多くが正直に申告をし、税負担を支えている陰で、ひそかに不正手段を弄し、これを免れて私欲をはかっている者がいるということの弊害は、考えてみれば社会の財政的構造に直結しているとともに、放置するとすぐ蔓延する契機を含んでいて重大であり、軽く考えてはいけない事犯である。ほ脱にあたっては、架空の連帯保証債務を計上し、これを真実らしく装うため、架空の手形を振り出してこれに裏書し、あるいは架空の抵当権を設定し、あるいは架空の領収証を作成しているなど、その手口は巧妙かつ手がこんでいる。また、東日本同和会という組織の力を基盤にして脱税を目論む勝矢の相談を引き受けている点にも大きな問題を含んでいる。そして、何よりも、被告人は、税理士として、税務事務処理の公正さを守るべき重要な責務を負いながら、逆に、私的利益を目当てに不正行為の重要な一翼を分担した点で、負うべき責任は極めて重大である。

ただ、被告人としては、中島らに頼まれて偶々関与したもので、このような行為を積極的に求め、介入していったものではないこと、配分を受けた金額は一〇〇万円であり、小額とは言えないが、他の共犯者らと比較すると格段少なかったこと、本件により税理士会を自主退会し、現在は妻の保健外交員としての収入を主たるあてにして生活しており、本件有罪判決が確定すれば、今後相当長期間にわたってこの種の仕事につくことを制約され、その点では本件中、他の関係者らに見られない特別の社会的打撃を受ける実情にあること等を有利に考慮し、これら有利・不利双方の情状を勘案して、主文のとおり量刑する。

(適用した罰条)

相続税法六八条一項、刑法六五条一項、六〇条、二五条一項

裁判所書記官 綾部弘

(裁判官 秋山規雄)

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